両神山

大学3年生のゴールデンウィークもあっという間に終わってしまった。何をしていたのかと問われてももはや完全に正確には思い出せない。出来事を目に焼き付けて反芻する能力が落ちたのかもしれない。呼び戻せる記憶は、その時々の他者の表情、に尽きるだろうか。…当然ながら、そこから読み取る感情は一様ではない。100%の喜びや悲しみは存在せず、全ては複合的である。ささやかな無能感と可笑しさが思慮深く同居することもあれば、自己韜晦の視線の奥に、意外なほど優雅な善意が見え隠れすることもある。要は解釈する側の問題。


3年にもなって何故遊んでいるのか、とも思うがおそらく考えるだけ無駄なような気もする。自分が欲しているのは気分の逆説的な高揚であり、もっと端的に言うとエンドルフィンの分泌に相違ない。睡眠時間や食事を制限し、なおも激しく活動する事で生み出される強いストレスが、欲求不満と興奮と多幸感をない交ぜにする、…要はハイになる。それだけの話。




そんなことはさておき、昨日は両神山に行ってきた。念のために言っておくと単独行ではない。
前日の晩に出発し、朝の8時に登山開始した。早々に正規ルートを外れ、地図に記載されていない尾根を延々歩き続ける。目の前に巨岩が現れても、そもそもが道ではないので巻き道が無かったりする。仕方が無いので滑落を覚悟で鎖の無い岩に取り付いたりしていた。危ないにも程がある…ただ、登っている時は道を間違えているとはつゆも思わなかった。一般ルートに整備できない痩せた尾根だけあって見晴らしが非常に良く、遠くは甲武信ヶ岳八ヶ岳も眺められた事が効いていたと思う。


3時間後に正規ルートに復帰した。といってもそこは廃道寸前のひどい荒れ様であり、幾重にも分かれる微かな踏み跡がルートの発見を難しくしていた。偶然すれ違った埼玉県警の現場隊に「もうこの道もだめだよ、ハハハ」みたく笑われたことが印象に残っている。仮に遭難したらヘリコプターを出してくれるらしかった。バカバカしくてちょっと笑った。人が通らないせいか、薄紫色のツツジが思い思いに花を咲かせていた。綺麗だった。


5時間半後に山頂に到着した。半径15キロ以内にここより高い山が無いので、誰と勝負したわけでもないのに何だか勝ち誇った気分になる。山頂から北は鎖場の連続で、かなりの緊張を強いる。せり上がる岩峰の連なりは、巨大な龍の背中を思い起こさせる。パーティの他のメンバーが難所を楽々と越えていくのを羨ましく思いながら歩いていた。


10時間後に下山した。途中何回か遭難しかけたが、その度にメンバーのルートを見つける動物的な勘に助けられたような気がする。正体不明の踏み跡と赤テープに何度狂わされたことか。。。とりあえず喉が渇いたので、アクエリアスの500ml缶を一気飲みし、続いて酎ハイを飲んでアルコールが全身に回るのを確かめながら電車の中で寝た。他にも色々あったけれど、トータルでみてやけに充実した山行だったことだけは間違いない。


とりあえず明日から学校なので夜更かしだけは避けたいと思う。12時就寝予定。